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用語の統一と翻訳メモリ:カタルーニャの日系現地法人との継続的な技術翻訳

青みがかった空を背景にそびえる、ガラス張りの高層ビル2棟。互いに向き合うように建つそのシルエットが、日本本社とカタルーニャ現地法人という二つの拠点の関係を思わせるイメージ

カタルーニャに生産拠点を置く、ある日系自動車部品メーカーの品質保証部門でのことである。3年前に始まった検査報告書の翻訳案件で、担当者が過去の文書を見返していたところ、同じ検査項目が「絶縁抵抗試験」と訳されている文書と「絶縁耐力試験」と訳されている文書が混在していることに気づいた。日本語の原文では、この二つは別々の試験を指す。スペイン語版だけを見ている本社の品質担当者からすれば、両方とも”prueba de resistencia de aislamiento”と一様に訳されていれば、区別のしようがない。翻訳メモリに用語の統一ルールが記録されていたおかげで、この食い違いは次の案件に持ち越される前に修正された。もし記録がなければ、同じ誤りが半年後、1年後の報告書にも繰り返されていたはずである。

単発の翻訳案件であれば、この種の食い違いはさほど大きな問題にならない。しかし、数か月おき、あるいは毎月のように文書が発生する継続的な関係では、用語の一貫性は積み上げるものであり、案件ごとに作り直すものではない。

カタルーニャに集中する日系企業という土壌

スペイン全土に拠点を置く日本企業は2024年時点で390社、そのうちカタルーニャに拠点を構えるのは230社で、比率にするとおよそ6割にのぼる(カタルーニャ側の内訳については2022年のデータが最新で、それ以降の更新は確認されていない)。自動車部品大手のデンソーは1990年に欧州第一号の工場をこの地に設立して以来、製造拠点を置き続けている。同じく自動車部品のカルソニックカンセイ、自動車用シートのタチエスも拠点を構えており、タチエスは最近もバルセロナで500万ユーロを投じた新しい生産ラインを立ち上げるなど、投資を拡大している。こうした企業では、取扱説明書や検査報告書、仕様書といった技術文書が、単発ではなく継続的に発生する。日本本社と現地法人の間を、ほぼ切れ目なく行き来していると言ってよい。

単発の翻訳と、継続する翻訳は別物

一度きりの文書であれば、その場で文脈に合った訳語を選べば十分である。しかし同じ製品ラインの取扱説明書が改訂を重ね、検査報告書が毎月本社に送られ、仕様書の変更点だけを反映した追補版が届くような関係では、話が変わる。過去の文書でどの用語をどう訳したかを翻訳者が覚えていることに頼るのは現実的ではなく、案件を重ねるたびに一から用語を選び直していては、文書間で表記がずれていく。

継続的な関係では、専用の用語集と翻訳メモリを最初の案件から構築し、以降のすべての案件でそれを参照する体制が必要になる。これは追加のオプションではなく、長期的な取引を前提にした技術翻訳では標準の進め方である。

用語集はどう育っていくか

用語集は、最初の案件で確定した訳語をまとめることから始まる。部品名、試験名、規格番号、社内特有の呼称などが対象になる。次の案件で新しい用語が出てくれば、既存の用語集と矛盾しないかを確認したうえで追加し、疑義がある場合はお客様側の担当者に確認を取る。この積み重ねにより、用語集は案件を重ねるごとに厚みを増し、迷いやすい表現ほど早い段階で解消されていく。

5年前に確定した用語が、今日届いた文書にもそのまま使われる。これが継続的な関係の中で用語集が果たす役割であり、担当する翻訳者が変わった場合でも、この用語集があることで訳語が崩れない。

翻訳メモリが本当に効いてくるのはいつか

翻訳メモリは、過去に確定した訳文をすべて保存し、同一または類似の文が再び現れたときに再利用する仕組みである。1件だけの案件では、その効果は限定的である。しかし取扱説明書が改訂され、変更が数段落にとどまるようなケースでは効果が大きい。差分だけを新たに訳せばよく、残りは過去の訳文をそのまま呼び出せるため、確認作業は変更箇所に絞られ、納期も短縮される。

関係が長くなるほど、翻訳メモリに蓄積された過去の訳文の量は増え、新しい文書に含まれる「見たことのある表現」の割合も上がっていく。3年目、5年目と案件を重ねるほど、この仕組みの価値は大きくなる。

一致率(マッチ率)の目安も知っておくと判断がしやすい。100%一致であれば内容の確認のみで済み、75%から94%の範囲では文脈に応じた修正が必要になることが多く、74%以下になると新規に訳すのとほぼ同等の作業量になる、というのが一般的な目安である。改訂版のマニュアルで一致率の高い箇所が多ければ、それだけ納期と費用を抑えられる。3年目、5年目と案件を重ねた現場では、一致率90%以上の箇所が全体の6割から7割を占めることも珍しくなく、確認作業だけで済む範囲が年々広がっていく。用語集の更新頻度についても目安がある。案件の初年度は四半期ごとに1回程度のペースで見直しが発生することが多いが、3年目を過ぎると半年に1回程度まで落ち着く現場が多く、これも継続的な関係が積み重ねてきた安定の表れだと言える。大規模な現場では、用語集の項目数が3年目までに800語を超えることも珍しくなく、検査報告書だけで月あたり15,000語前後を扱うケースもある。

本社に戻る報告書も、同じ精度で

カタルーニャの現地法人が作成する生産報告書や検査記録は、スペイン語から日本語へ翻訳されて日本本社に届く。この流れは、本社から現地法人へ送られる技術文書と同じくらいの頻度で発生する。品質保証や生産管理の担当者が本社で判断を下す材料になる文書である以上、この方向の翻訳でも同じ用語集と翻訳メモリを使い、行き来する双方向の文書で用語がぶれないようにしておく必要がある。冒頭の「絶縁抵抗試験」と「絶縁耐力試験」の混同のように、一方向だけ整えても、逆方向で崩れていれば意味がない。

継続案件として始めるには

継続的な技術翻訳を検討している場合、最初の案件を依頼する時点で、今後どのくらいの頻度と分量で文書が発生する見込みかを伝えておくと、単発案件としてではなく、育てていく用語集を前提にした進め方を最初から設計できる。既存の用語集や過去の翻訳がある場合は、それも合わせて共有いただくと、初回から一貫性を保った状態で始められる。

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