取扱説明書の日本語・スペイン語翻訳:用語の一貫性が品質を決める

タラゴナ近郊のプラントで、ポンプの流量調整をめぐって現場の作業が一時止まったことがある。マニュアルの3ページ目には「容量500L/min」とあり、スペイン語版は”capacidad de 500 L/min”と訳されていた。ところが17ページ目、同じポンプのモーター仕様欄にも「定格容量5.5kW」という表記があり、スペイン語版はやはり”capacidad de 5.5 kW”だった。オペレーターは流量の話をしているのか出力の話をしているのか一瞬で判断がつかず、スペイン語しか話さない保全担当者に無線で確認を取ることになった。原因が分かってしまえば数分で片づく話だが、同じ単語が二つの異なる意味で使われていることに誰も気づかないまま、そのマニュアルは何年も現場に置かれ続けていた。
日本の製造業がカタルーニャに現地法人や取引先を持ち、取扱説明書や仕様書を継続的にやり取りする場面では、この種の食い違いは珍しくない。日本とスペインの貿易額は2024年に過去最高の78億ユーロに達し、この10年着実に伸びてきた。牽引役は自動車と機械分野で、日本企業はこの期間にカタルーニャへ7億ユーロを投資し、3,000人以上の雇用を生み出している。取引の規模が大きくなるほど、やり取りされる技術文書の量も増える。文書は日本本社からカタルーニャへは日本語からスペイン語へ、現地法人から本社への報告書はスペイン語から日本語へと、双方向に流れる。どちらの向きであっても、単語の選び方に一貫性がなければ、現場の技術者や保全担当者はマニュアルを信頼できなくなる。
文法より、用語の統一が問われる
技術翻訳で実際に品質を左右するのは、文法の正確さよりも用語の一貫性であることが多い。同じ部品や数値が章によって違う言葉で呼ばれていると、読み手はそれが同じものを指しているのか、別の対象を指しているのか判断できなくなる。取扱説明書と仕様書、部品表の間で呼び方がずれているケースも同様で、発注ミスや保全作業の遅れ、場合によっては通電中や加圧中の設備に対する誤った操作につながる。
一人の翻訳者がどれほど優秀でも、この問題は個人の技量だけでは防ぎきれない。有効なのは、案件の最初から専用の用語集を作り、文書が増えるたびに更新していくこと、そして確定済みの訳文をすべて保存する翻訳メモリを並行して運用することである。改訂版のマニュアルで数段落しか変更がない場合でも、翻訳メモリがあれば変更のない部分をそのまま再利用でき、版が変わっても同じ用語が保たれる。数年おきに改訂が入るような文書でも、この仕組みが一貫性を支え続ける。
「容量」という言葉が抱える三つの意味
日本語の技術文書では「容量」という言葉が、分野によってまったく異なる物理量を指すことがある。ケーブルの容量といえば、過熱せずに流せる電流の上限を指し、スペイン語では”capacidad de corriente”や”intensidad admisible”にあたる。ポンプの容量といえば、単位時間あたりに送り出す液体の量、つまり流量のことで、スペイン語では”caudal”が対応する。クレーンや天井クレーンの容量といえば、吊り上げられる最大荷重を意味し、スペイン語では”capacidad de carga”になる。電流、流量、荷重というまったく別の物理量が、日本語では一つの言葉に収まってしまう。
機械や電気設備の知識がないまま訳すと、「容量」を毎回同じスペイン語の単語、多くの場合は漠然とした”capacidad”に置き換えてしまいがちである。モーターと配管の両方が登場するマニュアルでこの単純化が起きると、アンペアの値とキログラムの値、あるいはリットル毎分の値が読み手の頭の中で混ざってしまう。冒頭のプラントで実際に起きたのは、まさにこの種の混同だった。
汎用翻訳者では届かない領域
スペイン語に堪能であることと、機械や電気の技術文書を正確に訳せることは、別の能力である。汎用の翻訳者は、遮断器と断路器の違い、あるいはアクチュエータと油圧シリンダーの違いを、業界の実務を知らなければ区別できないことが多い。文法的には破綻していない訳文の中に、安全上の注意を弱めてしまう言い回しや、単位の取り違えが紛れ込む。こうした誤りは専門知識のない読み手には気づかれず、実際に設備を扱う技術者が現場で初めて発見することになりやすい。
このため、案件を担当するのは対象分野の実務経験か専門教育を持つ翻訳者とし、納品前には別の言語専門家が原文と照合しながら全文を確認する。この二重チェックは案件の規模にかかわらず標準の工程として行っており、大きな案件だけの特別対応ではない。
英語版だけでは解決しない
英語の取扱説明書を一つ作っておけば十分だと考える製造業は少なくない。しかし、日本語からスペイン語への訳を英語経由で行うと、専門用語が二回言い換えられることになり、意味がずれる余地はむしろ増える。加えて、2025年のEF英語能力指数で日本が記録したスコアは446点(700点満点)にとどまった。11年連続の順位下落を経て96位に沈んだこの結果は、対象123の非英語圏の国・地域の中でも「非常に低い」区分に位置づけられている。カタルーニャの現地法人で実際にマニュアルを開くのはスペイン語話者の技術者や保全担当者であり、英語版の存在は、現場でそのまま使える文書があることとは別の話である。
プロジェクトを始める前に
技術マニュアルの翻訳を依頼する際、あらかじめ用意しておくと話が早い情報がいくつかある。原文の分量、ファイル形式(Word、InDesign、CAD図面付きPDFなど)、対象となる設備や機械の分野、既存の用語集や翻訳メモリの有無、そして今後どのくらいの頻度で改訂や関連文書が発生する見込みかである。継続的な取引が見込まれる場合は、その旨を最初に伝えておくと、単発の案件としてではなく、長期的に育てていく用語集として設計できる。
取扱説明書や仕様書の翻訳をご検討の方は、文書を添えて[email protected]までご連絡いただくか、WhatsApp+34 647 289 094でご連絡ください。1営業日以内に、固定価格の見積もりをお送りします。